2009年8月29日土曜日

第12回 愛媛県総合科学博物館

Ehime Prefectural Science Museum
[image: "Ehime Prefectural Science Museum" on flickr, by ida-10]


愛媛県総合科学博物館は、様々な体験を通して科学に関する知識を学べる博物館です。設計したのは、都知事選・参院選への出馬も記憶に新しい、故・黒川紀章(1934-2007)。日本を代表する建築家のひとりといっていいでしょう。東京・六本木の「国立新美術館」も氏の作品のひとつです。


Ehime Prefectural Science Museum
[image: "Ehime Prefectural Science Museum" on flickr, by ida-10]



Ehime Prefectural Science Museum
[image: "Ehime Prefectural Science Museum" on flickr, by ida-10]



Ehime Prefectural Science Museum
[image: "Ehime Prefectural Science Museum" on flickr, by ida-10]



近未来的な外観は、円錐(えんすい)形のエントランス、球状のプラネタリウムなどの幾何学のボリュームから構成されています。

中でも円錐形のエントランスはこの建築の最大の特徴です。円錐形のボリュームは、建物の入り口であり、それぞれの展示室を繋ぐスロープとなっています。さらに水面に浮かぶようなプラネタリウムへも、この円錐形のボリュームの地下からアクセスします。つまりこの円錐は、博物館の起点と終点であり、人々の移動の動線を可視化したものでもあるわけです。

休日などには、この円錐に人が集い、そして人々がスロープをくるくると回る光景が目にされます。黒川は様々な建築で円錐を用い、そしてそれぞれの円錐に意味を与えました。この博物館の円錐は、黒川の多くの建築の中でも「楽しい」ものといえるように思われます。


設計:黒川紀章建築都市設計事務所
所在地:愛媛県新居浜市大生院2133-2(地図
主要用途:博物館
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造 一部鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
階数:地下1階 地上6階
竣工:1994年
建築面積:10,539m2
延床面積:24,290m2

利用案内:
開館時間:9:00-17:30
閉館日:月曜(ただし第一月曜は開館し翌日休館)、年末年始、その他臨時休館日あり
外部リンク:愛媛県総合科学博物館

2009年8月21日金曜日

第11回 別子銅山記念館

Besshi Copper Mine Memorial Museum
[image: "Besshi Copper Mine Memorial Museum" on flickr, by ida-10]



Besshi Copper Mine Memorial Museum
[image: "Besshi Copper Mine Memorial Museum" on flickr, by ida-10]



Besshi Copper Mine Memorial Museum
[image: "Besshi Copper Mine Memorial Museum" on flickr, by ida-10]



別子銅山は新居浜市(旧・別子山村)の山ろくにあった銅山で、江戸時代(1690年)から1973年までの約280年間にわたり銅が産出されました。開山以来、一貫して経営したのが住友家で、これが現在の住友グループの礎(いしずえ)となり、新居浜市の発展のみならず、日本の近代化に寄与しました。

かつて別子銅山のあった山ろく部への入り口にあるのが大山積神社で、これは銅山の開山に伴い、大三島(今治市)より分霊され建立されたものです。「別子銅山記念館」は、別子銅山の閉山後、この大山積神社の境内に建てられました。

この建築の屋根には一面にサツキが植えられ、5月には満開の花を咲かせます。一見すると「巨大な花壇」のようですが、この下は半地下の構造になっており、別子銅山の歴史や技術を後世に伝えるための様々な展示がなされています。このようなデザインを用いたのは、神社との調和に配慮したからでしょう。現在の屋上緑化を先取りした建築であり、また今治の「亀老山展望台」で建築家・隈研吾がみせたような「建築を隠す」手法を先取りしたものともいえるのではないでしょうか。

記念館の内部は(展示物のためでもありますが)照明が落とされ、薄暗い照明計画がなされています。銅山の内部を思わせるような空間が意図されたのでしょう。天井には一か所だけ天窓が設けられ、銅山の稼動許可日の5月9日の正午にのみ、ここから太陽の光が差し込むそうです。


設計:日建設計
所在地:新居浜市角野新田町3−13(地図
主要用途:記念館
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上2階
竣工:1975年
建築面積:946m2
延床面積:1054m2

利用案内:
営業時間 9:00-16:00
休業日 月曜日・祝日・年末年始

2009年8月15日土曜日

[interview vol.01] 竹内陽介(ラ・ミールカンパニー)

[interview vol.01]
竹内陽介
ラ・ミールカンパニー代表取締役


新居浜市の「カフェ・ラ・ミール」は三角形の外観が特徴的なカフェで、2006年末のオープン以来、地元の人々をはじめ多くの人々に親しまれています。今回のインタビューは建築の「発注者(オーナー)」に注目し、カフェ・ラ・ミールを運営する竹内さんに、この建築ができるまでと、これからの話について伺いました。

Cafe La Miell
[image: "Cafe La Miell" on flickr, by ida-10]



「愛媛に無いもの」を求めて



――このカフェができるまでの経緯を教えてください。

竹内:以前、新居浜大丸の中でカフェをやってたんですよ。大丸が閉店したのが8年くらい前ですが、それと同時にカフェも無くなってしまったので、そのときに独立してこちらに移ってきました。この建物の向かい側にも店舗がありますが、そこでカフェをやっていました。

――向かい側のカフェが人気が出て、こちらに広げることになったということですか。

竹内:そうですね。いくつかのカフェや雑誌を見たりしましたが、そこで谷尻さんの建築が載っていたのをみつけました。あ、これいいな、って。店舗も住宅も見ましたね。

――どのような依頼をされたんですか。

竹内:「愛媛に無いもの」を求めて考えてもらいました。自分は建築が専門じゃないから、想像力も知れているじゃないですか。私たちが考えても普通の建築しか浮かんでこない。自分の想像を上回るものを考えてもらおうと、谷尻さんに案を出してもらいました。そうじゃなかったら建築家に頼みません。


Cafe La Miell
[image: "Cafe La Miell" on flickr, by ida-10]




建築家のアイデア、オーナーのこだわり


――特徴的な外観ですが、この三角形の案は初めから出ていたんですか。アイデアはどのように形になったんですか。

竹内:三角形の案は最初から出てきましたね。外装についてはエコっぽく…屋上緑化のようなものをお願いしましたが、管理上難しいということで、石になったんです。県からも、石がずれないように、と…。

――石もちゃんと固めて、落ちないようになっていますよね。

竹内:庭師さんがいましたし、そこはきちんとやってくれました。施工はジョー・コーポレーションさんにお願いしたんですけど、あのような大きい会社じゃないと難しいようですね。

――緑もいっぱい植えられていますよね。建物に隙間を設けて植えているので、内側からは中庭みたいな感じで、お客さんの居場所がつくられてるように思います。

竹内:場所ごとに見えるシーンも違いますね。一部地下になってますけど、もともとここは田んぼで、1m50cmくらい下がってたんです。だから地下に駐車場をつくろうとか、いろんなことを話しましたね。でも、5年前に新居浜で水害があったんですよ。また起こったらいけないので、床を上げてくれという話をしました。谷尻さんとはそのような色々な話をしましたが、結果的に想像以上のものができたと思っています。10年経っても古くない建築だと思うんですよ。小学生くらいの子どもも、変わった建物があるといって喜んでますね。

――外にも「上らないでください」って書いてましたね。

竹内:上るんですよ(笑)。




今後の「ラ・ミール」の展開


竹内:ここもまたリニューアルをするつもりで、谷尻さんともそういう話をしているんですよ。この中にまた家を建てようとか…。

――建築の中に建築を建てるというと、入れ子のようなものですか。

竹内:そうそう。入れ子は難しいという話になりましたが…ここはカフェだけじゃなく、日曜限定でブライダルや2次会などのパーティで使っていただいてるんです。通常、結婚式ってカチッとしていますよね。まずこれがあって、次はこれがあって…みたいにやることが決まっている感じですが、ここでは自分たちのオリジナルのブライダルをやりたいというお客さんが多くいますから、そういうお客さんに対応できるようにしたいと思っています。谷尻さんとも打ち合わせをしていますが、今は不景気なんで、今やるべきかどうかを検討しているところです。

――以前カフェとして使っていた向かい側の建物も、谷尻さんにお願いしたんですよね。

竹内:向かい側の建築は、この建築ができた後に改装しました。インテリアがヨーロピアン調のレストランで、パーティなどに使っています。

――「ラ・ミール」はリーガロイヤルホテル新居浜にも出店されているようですし、どんどん広がっていますね。

竹内:カフェは常に新しくないとお客さんも飽きしまうんですよ。このような建物を建てたのは、手狭になったのもありますが、お客さんのことを考えたからでもあるんです。常に新しいものを求めないといけない。もちろん、おいしいものを出さないといけないし、こだわりはあります。デザートも一から作りますし、コーヒー豆もブラジルのものを指定して買ったりしていますしね。


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・関連記事:第10回 Cafe La Miell

・関連情報:
e-komachi愛媛版 > Cafe La Miell(カフェ ラ・ミール)
suppose design office

第10回 Cafe La Miell

Cafe La Miell
[image: "Cafe La Miell" on flickr, by ida-10]



Cafe La Miell
[image: "Cafe La Miell" on flickr, by ida-10]



Cafe La Miell
[image: "Cafe La Miell" on flickr, by ida-10]



新居浜市の中心部に位置する「カフェ・ラ・ミール」は、三角形の外観が特徴的な建築です。向かい側の既存店舗が手狭になったことから計画されたこの建築では、敷地が周囲より1mほど下がっていることを逆手に取り、半地下と1階による計画がなされました。2階建てよりもスタッフの作業効率がいいことも理由のひとつです。

構成はシンプルで、半地下と1階というふたつの床の高さにあわせ、コンクリート屋根を斜めにかけています。その屋根が三角形という特徴的な外観として表れています。

自然と一体になったような外観も大きな特徴です。屋根の上には石が敷きこまれ、屋根と屋根の間には緑が植えられています。この庭は建物の中庭のように機能し、内部空間を緩やかに分け、お客さんの居場所を作っているようです。

このカフェは、特徴的な外観や居心地の良さもさることながら、一からこだわって作られたケーキやコーヒーもおいしく、連日賑わいを見せています。



設計:谷尻誠/suppose design office(構造:名和研二/なわけんジム)
所在地:新居浜市高木町4-10(地図
主要用途:店舗
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上1階
竣工:2006年
建築面積:230.77m2
延床面積:218.00m2

利用案内:
営業時間 9:00-23:30 ※金・土曜は~24:00
休業日 水曜日


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・関連記事:[interview vol.01]竹内陽介(ラ・ミールカンパニー)

2009年8月2日日曜日

第9回 鯛や

Tai-ya
[image: "Tai-ya" on flickr, by ida-10]


Tai-ya
[image: "Tai-ya" on flickr, by ida-10]



焼いた鯛一匹を土鍋の米の上に乗せ、ともに炊き込んだ愛媛の郷土料理「鯛めし」の専門店として評判を呼んでいるのが、松山の古くからの港町、三津にある「鯛や」です。

1日30食限定で鯛めしを提供するこの「鯛や」は、1929年(昭和4年)に建てられた木造の古民家を飲食店として使用。2階の外壁には緑青の銅板が施されています。かつての松山・三津の様子を現在に残す存在のひとつといえるでしょう。

中に入ると1階には座敷が広がっていますが、かつてこの座敷は「句会」に使われていたといいます。松山に生まれ育った俳人、正岡子規の俳諧の師である大原其戒も三津に住んでいたそうで、そうしたことも三津の町衆の俳句熱を後押ししたのでしょう。

「鯛や」は、飲食店として運営されながら、2階は昔の三津の様子などを展示する資料館として開放するなど、地域に開いた活動を行っています。三津ではこの「鯛や」を含めたいくつかの古い建築を活用した取り組みが行われていますが、「鯛や」はそれらの建築とともに、三津という地域と市民とを繋ぐプラットフォームのような役割を果たしているといえるのではないでしょうか。



所在地:愛媛県松山市三津1-3-21(地図
構造:木造
階数:地上2階
竣工:1929年

※2009年8月8日(土)~9日(日)に、「鯛や」を含めた三津の各施設にて「三津浜アートの渡し2009」が開催されます。

日時:2009年8月8日(土)・9日(日) 12:00~18:00
場所:木村邸、アート蔵、鯛や
詳細リンク三津浜アートの渡し2009 開催!!