2009年5月24日日曜日

第3回 亀老山展望台

[image: "IMG_0010" on flickr, by Siren Fay]



[image: "Kirosan Observatory" on flickr, by ida-10]



[image: "Kirosan Observatory" on flickr, by ida-10]




建築家・隈研吾が手がけた展望台が、本州と四国を結ぶ「しまなみ海道」の道中、大島の亀老山(きろうさん・きろうざん)の頂上にあります。標高307メートルの山の頂上にあるこの展望台からは、来島海峡を眼下に、瀬戸内の風景を臨むことができます。

「展望台が地中に埋められている」――それがこの建築の最大の特徴です。山の頂上には展望デッキがちょこんと乗っているだけで、建築の「かたち」を確認することはできません。いわば「隠された」建築です。こうした「建築を隠す」という手法は、建築家・安藤忠雄の設計した「地中美術館」(香川県直島町)など、現在では様々なところで目にするようになりました。

こうした姿勢が見られるようになった背景には、展望台が建てられる数年前に起こった、バブル経済の崩壊がひとつとして考えられます。バブル経済期には、過剰な装飾を施した建築など「存在感を過剰に主張した建築」が多く建てられました。そしてバブル崩壊の後には、公共建築をはじめ「建築を建てる」ということ自体に批判の目が向けられるようになったのは周知のとおりです。

この建築には、そうしたバブル期の状況に対する反省が含まれているのではないでしょうか。主役は展望台それ自体ではなく、瀬戸内の風景であり、亀老山にも「飾り」としての建築はいらない――それがこの「隠された」建築の主張といえるのではないでしょうか。


設計:隈研吾
所在地:今治市吉海町(地図
主要用途:展望台
竣工:1994年

2009年5月17日日曜日

第2回 伊丹十三記念館


[image: "Itami Juzo Museum" on flickr, by dragonsfanatic]



[image: "Itami Juzo Museum" on flickr, by dragonsfanatic]



チョコレートケーキは記念館の建物を模したデザインです。

[image: "Cafe "Tampopo" at Itami Juzo Museum" on flickr, by dragonsfanatic]



映画監督、商業デザイナー、エッセイスト、俳優など「13」の顔を持つと言われている伊丹十三の記念館です。伊丹の「13の顔」にちなみ、この記念館には13のコーナーが造られています。
建築を設計した中村好文(-よしふみ)は若い頃から伊丹十三のエッセイを愛読してきたそうで、展示室のデザインも中村の手によるもの。引き出しを開けると出てくる展示品など、随所に工夫が凝らされています。
展示室を抜けるとそこにはぽっかりと中庭が空に広がり、その周りを廻廊が取り囲んでいます。フランスやイタリアの修道院の廻廊から着想したというこの空間は、日常とは切り離された静謐な場所を意図しているそうです。
展示品はもちろんですが、建築や展示室、そして、手渡される案内や館内のカフェメニューなど随所に優れたデザインが散りばめられている点も見逃せません。


設計:中村好文
所在地:松山市東石井1-6-10(地図
主要用途:個人記念館
構造:鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
階数:地上2階
建築面積:723.49m2
延床面積:860.90m2
竣工:2007年
外部リンク:伊丹十三記念館

第1回 日土小学校



「日土小学校」は、愛媛県大洲市出身の建築家、松村正恒(-まさつね、1913-1993)が八幡浜市役所建築課に在籍時に設計した小学校です。
松村は1960年、『文藝春秋』の特集で、故・丹下健三らと並び日本を代表する10人の建築家に選ばれたほどの実力者です。しかし、名をあげることを嫌った松村は、自らを「無級建築士」と名乗り、その後メディアから消えてゆきました。
それでも実力ある松村のこと、晩年には松村の再評価の動きが起こります。そして没後の2000年には、モダニズム建築の記録・保存のための国際組織「ドコモモ(docomomo)」により、松村の建築が「日本の近代建築20選」に選ばれました。その建築が「日土小学校」なのです。
日土小学校は一見すると普通の小学校に見えますが、現代にも通じるデザイン性、「クラスター型」と呼ばれる斬新な教室配置計画、大工の経験技術と構造力学の融合など、建築の細部を見ると、そこには松村のデザインがつぶさに込められています。
それらのデザインは何より、ここで学ぶ子どもたちを思ってのことでしょう。緩やかな階段や、窓を大きく取った教室などに注目すると、その意図は明らかです。そして何より、川面に張り出されたテラス。この場所は、子どもたちにとって、とっておきの場所ではないでしょうか。


設計:松村正恒
所在地:八幡浜市日土町2-851(地図
主要用途:小学校
構造:木造
階数:地上2階
竣工:1956年(中校舎)、1958年(東校舎)
※2009年現在、保存改修と増築工事の実施を迎えています。